一般社団法人日本アカペラ協会設立への想い

私には忘れられないパフォーマンスがあります。

それはアメリカのホスピスでの訪問演奏でのことでした。いつものようにアカペラ演奏を終えたグループの前には、涙をボロボロと流すおばあさんが大勢いました。おばあさんは泣きながら「今日は歌いに来てくれてありがとう。私たちはずっと昔に夫を亡くしているから、元気に歌うあなたちを見て昔の彼を思い出していたの。幸せだったわ」と涙の理由を教えてくれました。それまでは、音楽が好きで単に楽しいという気持ちで歌っていましたが、この出来事がきっかけでアカペラが持つ力の可能性に目を向けることができました。なぜアカペラをしているのか、アカペラでどうしたいのか漠然と考えるようになったのです。

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その年、グループとしては10年ぶりに国際大学生アカペラ大会(ICCA)に出場することになりました。日本でアカペラと言うと5〜6人でステージに立ち、綺麗に歌い上げるイメージがありますが、アメリカでは15人〜20人のグループで踊りながら迫力ある「魅せるパフォーマンス」が一般的で、これには正直驚きました。

曲を通して「何を魅せたいのか」「何を伝えたいのか」を決める話し合いの際、メンバーからは様々な意見が出されました。その上でグループとして共通のテーマを伝えられるようにするためにソロを歌うメンバーと、ハーモニーを担当する残りのメンバーが向き合って歌うという練習をしました。ソロの表情をよく見て顔の表情を変えたり、声色や音量を調節したりするためです。

そのとき、ビビビと激震が走り鳥肌が立ちました。まるで同じ波に乗ったように、一曲を通してグループが一つにまとまったからです。このとき、アカペラが決して一人ではできないことを学びました。隣で歌う仲間を信頼し、耳を傾けることではじめてハーモニーを奏でることができます。パフォーマンス中に、皆で話し合って決めたテーマに感情移入して涙を流したことが何度もあります。隣を見れば、仲間もまた感極まっていました。

アカペラには人を感動させる力があります。ホスピスのおばあさんが涙を流したように、かけがえのない仲間を持つことができたように、アカペラには人の心を動かす力を持っていると信じています。そして、それは感情や思いを包み隠さず安心して共有できる環境があったからこそ気づくことができたことです。アカペラで私は、楽しい時間や辛い時間を共に経験しながら、同じ目標に向かって成長し、切磋琢磨できる「家族」のような仲間を身近に持つことができました。そんな「家族」のような仲間を持つ環境、そして本人を含め「人に感動を与える力」を、国や文化、価値観を越えもっと多くの人に広め伝えていきたいと思い、(社)日本アカペラ協会を設立いたしました。息の長い活動を念頭に一歩一歩、地に足をつけてまいりますので、今後ともご理解、ご協力の程宜しくお願い申し上げます。

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